ランチェスターの法則とは、第一次世界大戦時に、イギリスの技術者ランチェスター氏によって考案された軍事上の戦略理論です。
ビジネスの世界においても、マーケットシェアの少ない中小・ベンチャー企業が、競合の大手に勝つための戦略を立案する際などに取り入られています。
特に競合が強く、なかなかシェアを伸ばせずに悩んでいる、マーケティング担当者の方は知っておいて損はありません。
この記事では、Web担当者・マーケターの方に向けて、ランチェスターの法則とは何か、特徴や、他社の成功事例など詳しく解説していきます。
読み終えれば、あなたもランチェスターの法則をどのように活用すれば良いのか理解できるようになるので、ぜひ参考にしてみてください。
ランチェスターの法則とは「数的に優位な方が、戦いにおいては絶対的に有利である」ことを説いた理論
ランチェスターの法則を、分かりやすく言えば「数的に優位な方が、戦いにおいては絶対的に有利である」ということを示した法則のこと。
具体的な内容としては、戦闘における時間経過に伴う兵員の減少を、数理モデルとして記述しています。
開発者のフレデリック・ランチェスターは、両者の兵員数・武器の質/量などを数値化して、数式に当てはめることで、戦争における優位性を導き出そうとしました。
実際に第二次世界大戦における「硫黄島の戦い」において、法則が成り立つことが確認されており、日本軍は数・質ともに圧倒的に劣る中で、善戦したことが証明されています。
また戦後になると、ビジネスシーンでの活用も盛んになり、海外では大手自動車メーカー「フォルクスワーゲン」もマーケティング戦略として採用していました。
日本では経営コンサルタントの田岡信夫氏が自身の研究を元に、著書を出版したことで、ビジネスマンの間でも認知されるように。
現在も多くの企業で戦略立案の際に活用されており、ランチェスターの法則はビジネスの世界で生き続けているのです。
ランチェスターの法則は2種類
ランチェスターの法則は、細かく分けると2種類に分類されます。
一次法則 | 古典的な戦闘(武器は剣・弓矢)。1対1の局地的な戦いが想定される。 |
二次法則 | 近代的な戦闘(武器はマシンガン・戦車)。集団対集団の全域的な戦いが想定される。 |
2種類の法則が用意されている理由としては、古典的な戦闘と近代的な戦闘で、戦い方と結果に大きく差が出るためです。
例えば、古典的な戦闘の場合は、一騎打ち的な戦い方になるので、兵力が分散されにくく、減少する人員も大きくはありません。
しかし近代的な戦闘は、集団対集団での戦いになり、兵器を使って不特定多数を狙っての攻撃になるので、戦闘における被害は圧倒的に大きくなります。
そのため、一次法則は一次式、二次法則は二次式という形で決められているのです。
A軍:100人・B軍:80人と仮定して、それぞれ計算すると下記のように生存者を求めることができます。
A軍:100人 – B軍:80人 = 生存者:A軍20人
√(A軍:100人)² -(B軍:80人)² = 生存者:A軍60人
つまり一次法則(古代的な戦闘)では、20人の生存者となりますが、二次法則(近代的な戦闘)では60人と生存者数に大きく差が出てしまいます。
このことから、
- 弱者…相手を誘導して、戦力を分割させ、局地戦に持ち込んで戦う
- 強者…人数を使って一気に大勢の相手と戦う
という戦略の違いが浮き彫りになるのです。
「ランチェスターの法則=弱者の戦略」ではない?
「ランチェスターの法則」=「弱者の戦略」と捉えられがちですが、厳密に言えば、大きく異なります。
先述したように、弱者と強者の戦略の違いを表した法則に過ぎず、必ずしも弱者の戦略だけを指すものではありません。
ランチェスターの法則を活用した、弱者の戦略は「ランチェスター戦略」と表記されるため、法則自体の意味と混同しないように注意しましょう。
ランチェスターの法則をビジネスに活用すべき企業の特徴
ランチェスターの法則をビジネスに活用すべき企業は、スタートアップ・ベンチャーなど新興企業、中小企業などの弱者にこそ効果的に利用することが可能です。
先述したように、強者の戦略もランチェスターの法則から導き出せる理論ではありますが、人員・資本などで優勢な企業が、横綱相撲を取るのは当たり前過ぎますよね。
むしろ今まで2位・3位に甘んじている企業、これから市場に挑戦する新興企業の方が、ランチェスターの法則を効率的に利用できます。
弱者としての戦いを強いることで、強者に勝てる確率を増やせるように工夫していきましょう。
マーケットシェア理論で弱者か強者か判別すべき
自社が弱者か強者かを判別する際には、マーケットシェア理論が有効的です。
ランチェスター戦略を実行する際に、市場シェアをどのくらい取ればいいのかという指標を示しています。
- 73.9% 独占的な地位となり安全・安泰である。
- 41.7% シェアの大半を占め安定し始める。
- 26.1% トップの地位における最低条件、下回ると1位でも不安定。
- 10.9% 市場全体に影響を与えられる。
- 06.8% 市場への影響力を失うため、撤退検討目安。
- 02.8% 存在価値が無い。
マーケットシェア理論の指標は、現状分析・目標設定などを行う際に非常に有効的な指標であるとも言えます。
実際にフォルクスワーゲンでは、他社製品と販売競争を行う際に、1エリア当たりの自社の占拠率が40%以上を最初の目標としていました。(40%コントロール主義)
トップシェアをひとつずつ取っていって、最終的に大半のシェアを獲得する上でも、非常に重要な指標なので覚えておきましょう。
ランチェスターの法則を実際に活用する方法
強者と弱者で取るべき戦略が大きく異なるということは先述した通りです。
ここでは実際にビジネスにおいては、どのように活用していけば良いのかについて、
- 強者の戦略(大企業向け)
- 弱者の戦略(中小・ベンチャー企業向け)
の2つに分けて解説します。
強者の戦略(大企業向け)
市場において、圧倒的な影響力を誇っている強者の場合は、「第二法則」の考え方を応用することで、基本的に豊富な資本力で弱者を圧倒することができます。
大企業の場合、社内に複数の事業を抱えていることが多く、豊富な資源を活かして積極的に複数の市場でシェアを奪っていく戦い方が理想です。
現に国内のキャッシュレス決済アプリとして、シェアNo.1になるまで成長したPayPayは、後発ながらもSBグループの資本を総動員した結果の現れでしょう。
既に弱者が1位を取っている市場を、豊かな経営資源を使って、類似の商品・サービスを作成し奪っていくというやり方が出来るのも大きな強みです。
弱者の戦略(中小・ベンチャー企業向け)
一方で弱者の場合は、「第一法則」の考え方を応用して、ニッチな市場を狙ったり、まだ市場が成熟していない新しい市場を生み出したりすることが重要です。
競合他社との差別化を図ることによって、狙った市場でNo.1を獲得することで、シェアを確実なものにしていきます。
強者である大手企業が狙わないような、場所で一騎打ち的な戦いをしていくことで、勝てる確率を大きく向上させることができるのです。
ランチェスターの法則を活用した企業事例!強者・弱者の違い
具体的にランチェスターの法則を上手に活用している企業として、強者・弱者それぞれの成功事例を集めました。
自社で戦略を行う際に、必ず大きなヒントになるので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
強者戦略
現在、世界の検索エンジンにおいてTOPシェアを誇っており、圧倒的No.1の実力を誇っているGoogle。
Googleでは主要事業である、検索エンジン媒体での広告事業で獲得した経営資本を元手に、様々な事業に進出しています。
- ハードウェア(Google Pixel・Google Glass・Chrome Castなど)
- 自動運転技術
- 動画プラットフォーム(YouTube)
- OS開発(Android)
いかにも強者の戦略らしく、資本をきちんと使って、複数事業に参入していますよね。
イオン
日本の小売大手であるイオンは、主力事業であるGMS事業だけでなく、金融・ヘルスケアなどの分野にも参入しています。
- GMS(イオンリテール)
- スーパーマーケット(マックスバリュ)
- 金融(イオンカード・イオン銀行)
- ヘルスケア(ウエルシア)
今や日本のどこにでもある大型スーパーとして知られているイオン。
主力事業がかなり安定しており、消費者との距離も近いので、生活に関連する事業をいくつも立ち上げているのが特徴的ですよね。
弱者戦略
さわやかハンバーグ
静岡ローカルのハンバーグ・ステーキチェーンとして知られている「さわやかハンバーグ」。
あえて他の地域に進出せず、静岡県内だけに留めることによって、ブランドとしての希少価値を大きく高めることが出来ています。
また主力商品の牛肉100%ハンバーグも、SNSなどで大きく話題となっており、差別化を上手に図れているお店のひとつでしょう。
すき家
元々日本の牛丼業界には、吉野家という圧倒的強者がおり、なかなか参入が難しいと思われていました。
しかし創業者の小川賢太郎氏は、仕事する男性がさっと食べていくモノという牛丼のイメージを変えるべく、ファミリーでも入りやすい牛丼屋として「すき家」を考案。
結果的に2021年現在では、すき家が40%以上のシェアを誇っており、見事弱者から強者へと変貌を遂げました。
まとめ|ランチェスターの法則を活用して強者に打ち勝とう!
「ランチェスターの法則」を経営に活用することによって、より違う視点から戦略を考えられたり、差別化を図れたりとメリットが大きいという特徴があります。
弱者が強者と同じような戦略を打っていても、経営体力で上回る相手には、なかなか適うものではありません。
強者に打ち勝つ上でも、本記事の内容を活用して、圧倒的な強者に打ち勝てるような戦略を考案するヒントになれば幸いです。