見込み客の獲得やブランディングに、オウンドメディアを活用する企業が珍しくなくなりました。現在はBtoCだけでなく、BtoB企業においても成功事例が増えています。
一方で、立ち上げに際して「成功するか不安」「自社で運営できるのか」「自社に適した形態は?」など、疑問の声も多く聞かれます。
ここでは、成功に導くプロセスや記事制作のテクニック、BtoB企業が留意すべき点まで、オウンドメディアを軌道に乗せるポイントを解説します。
オウンドメディアの位置付け
オウンドメディアとは、自社で運営するメディアのことです。広い意味ではコーポレートサイトやパンフレットなど自社で持っているメディア全てを含みますが、一般にはWebに公開するコンテンツを指して、「オウンドメディア」と呼ぶことが多くなっています。
トリプルメディアの中心にあるオウンドメディア
マーケティングに利用されるメディアには、オウンドメディアのほか、有料で掲載する「ペイドメディア」、ユーザーが拡散する「アーンドメディア」があります。この3つを合わせて、「トリプルメディア」と呼ばれます。
効果的なマーケティングを行うために、まずは、それぞれのメディアの特性を理解しておきましょう。
ペイドメディアは不特定多数に宣伝したい場合に効果的で、主に認知度を高めたいときに活用されます。アーンドメディアは、ユーザーが情報を発信するため信頼・共感を得やすいという特長がありますが、自社で情報をコントロールするのが難しいメディアです。
オウンドメディアは自社でコンテンツを用意するため、ターゲットの絞り込みや情報のコントロールが得意です。戦略的にコンテンツを設計することで、次のような展開が可能になります。
- 認知の獲得:潜在顧客から既存顧客まで接点をつくることができる
- 理解を促進:業界や自社製品・サービスへの理解を深めることができる
- 信頼や共感を醸成:顧客との関係性を構築できる
- ファン育成:自社のファンを育てることができる
オウンドメディアには、潜在顧客のリード化からファン育成まで、全てのフェーズで顧客とのつながりを強化できるというメリットがあります。そのため、マーケティング活動では、オウンドメディアを中心に顧客接点の作り方を検討するケースが増えています。
ただし、オウンドメディアは検索されることで接触を増やしていくため、効果を得るまで時間を要するという側面もあります。ペイドメディア、アーンドメディアと組み合わせて展開すれば、流入・拡散において、より高いマーケティング効果を期待できます。
BtoB事業はオウンドメディアと相性が良い
現在では、BtoB事業でオウンドメディアが活用されるケースが多くなっています。オウンドメディアを運営する目的は、主に次の5つに整理できます。
- 見込み客を増やす
- 顧客数(成約数)を増やす
- リピーターを増やす
- 企業や製品のブランド力を高める
- 採用活動に生かす
とくにBtoB事業の場合、業界やターゲットを絞り込んで顧客獲得を狙うことが多くなります。そのため、不特定多数を対象にするBtoC向けの広告・マーケティング手法では、狙い通りの効果を得られないケースがあります。
一方のオウンドメディアは、ターゲットのニーズに合わせたコンテンツ制作が可能です。一般に、業界がニッチになるほど一般広告で顧客接点を作るのは難しくなりますが、オウンドメディアでは逆に効果を発揮しやすいフィールドになります。
この特性を生かして、専門性の高いオウンドメディアを立ち上げ、成功しているBtoB企業が増えています。
オウンドメディア成功のプロセス
オウンドメディアを運営する目的は企業によってさまざまですが、成功までのプロセスは共通しています。立ち上げに際しては、以下のフェーズに分けて検討を進めていきます。
- 企画フェーズ:1.ゴール設定 2.最適なコンテンツ設計
- 実行フェーズ:3.良質な記事制作
- 検証フェーズ:4.効果検証と改善
それぞれの段階において、何が成功のポイントになるのか解説していきましょう。
企画フェーズ:1.ゴールを設定
オウンドメディアを作るときは、まず自社のどのような課題を解決したいのか、ゴールを明確にします。オウンドメディアの役割をどう位置付けるかによってコンテンツの中身が変わるため、非常に重要な作業になります。
★成功のポイント
ゴールを設定するときは、①どのような人を②どのような状態にし③どのような成果を得るのか。この3つを言語化すると整理しやすくなります。
ゴール設定の例)
- どのような人を(ターゲット):
「自社のサービスを知らない、あるいは興味を持っていない人を」 - どのような状態にし(態度変容):
「サービスの特徴や活用シーンを理解できている状態にし」 - どのような成果を得るのか(ゴール):
「多くの人にサービスのメリットや魅力を知ってもらう」
「問い合わせ件数を増やす」
1~3の流れに、矛盾や違和感がないように設定することがポイントです。
企画フェーズ:2.最適なコンテンツ設計
ゴールが明確になったら、次にコンテンツ設計を行います。最適なコンテンツとは、以下のサイクルを生み出すものです。
「ユーザーにとって価値(有益性)のある情報を提供する」
↓
「ユーザーが期待通りの行動を起こす」
↓
「企業の課題が解決される」
オウンドメディアは、ユーザーに支持されることで成長していきます。一方で、たとえ人気を集めたとしても、企業の課題を解決できなければ運営する意味を失ってしまいます。
つまり、「企業が目指すゴール」と「ターゲットが求める情報」の2つをつなぐコンテンツを作る必要があるわけです。
以下の図は、コンテンツ設計の考え方を表したものです。
「企業が目指すゴール」の設定方法は前段で解説しました。
コンテンツ設計では、まずターゲット像を具体化してニーズを的確に把握します。次いで、ニーズを満たすコンテンツのコンセプトと記事の種類を決めます。方向性が定まったらプロセス指標(KPI)を設定して、定期的に効果をモニタリングできる体制をとります。
一つずつ解説していきましょう。
A.ターゲット像を具体化(ペルソナ設定)
ターゲットのニーズを深く捉えるために有効な方法が、ペルソナの設定です。ペルソナとは、ターゲットを象徴する人物像を具体的にすることをいいます。ペルソナを作ることで、どのようなコンテンツが響きそうか、つかみやすくなります。
ここで注意しなければならないのは、BtoCとBtoBではペルソナの作り方が異なる点です。
BtoCでは、消費者がターゲットになります。購買活動は個人の意思決定で行われるため、個人の嗜好や行動特性を細かく設定してニーズを探ります。
一方、BtoBは担当者個人の好みよりも、会社や所属部署の影響を大きく受けます。そのため、ビジネスにおけるニーズを具体的にする項目が必要になります。
それぞれの項目例を見ていきましょう。
BtoCのペルソナ例)
属性 | 性別 |
年齢 | |
職業 | |
学歴 | |
収入 | |
家族構成 | |
ライフスタイル | 休日の過ごし方 |
趣味・関心の対象 | |
好きな雑誌・テレビ番組 | |
行動特性 | 買物の傾向 |
情報収集の傾向 | |
貯蓄の傾向 |
BtoBのペルソナ例)
組織 | 所在地 |
規模 | |
事業内容 | |
目標・ミッション | |
事業課題 | |
担当者 | 所属部署 |
勤続年数 | |
リテラシー | |
業務内容 | |
部署または業務の課題 | |
情報収集の傾向 |
BtoCでは個人の人格、BtoBではビジネスにおける人格を明らかにしていくと、ターゲットとの接点を見つけやすくなります。
★成功のポイント
ペルソナが重視される理由は、ターゲットの潜在ニーズを精度高く捉えてコンテンツに反映すること、関係者間で認識がぶれないようにすることの2つです。そのため、ターゲットの心理・行動を想像できる粒感まで、具体的に言語化することがポイントになります。
BtoBの場合はとくに、担当者のリテラシーを明確にしておくと、コンテンツ制作時に目線を合わせやすくなります。
B.コンセプトを決定
オウンドメディアのコンセプトは、「企業が目指すゴール」と「ターゲットが求める情報」をつなぐことを念頭において考えていきます。
例を挙げてみましょう。
- 企業が目指すゴール:
「自社のビジネスツールが業務効率化につながることを知ってもらい、問い合わせ件数を増やす」 - ターゲットが求める情報:
「理想的な働き方を実現したい」
「業務効率を上げる方法を知りたい」 - コンセプト案:
「働き方が変わるビジネス情報サイト」
「ビジネスツールで新しい働き方を提案するメディア」
★成功のポイント
コンセプトを検討する際は、他社と被らないように差別化できる切り口を見つけることがポイントです。考え方は以下の2パターンがあります。
- 広範囲のニーズに対応するメディアにする
- ニッチな領域に絞り込み専門性の高いメディアにする
とくにBtoBでは、自社の専門性を生かせる領域に設定するとアドバンテージが高くなります。ただし、専門性が高い場合は、記事品質を維持するハードルも上がるため、十分に検討する必要があります。
C.記事の種類を決定
次に、コンセプトと照らし合わせながら、実際に制作する記事の種類を決めます。
★成功のポイント
どの状態にあるターゲットを狙うかによって、適した記事タイプは異なります。ターゲットの状態と記事タイプの適応性は、以下のように整理できます。
記事の種類まで決めたら、次にキーワードの選定を行い制作段階に入ります。
※キーワード選定やコンテンツSEOについては、こちらも参考にしてみてください。
D.プロセス指標(KPI)を設定
コンテンツ設計ができたら、KPIを設定します。ゴールの置き方によって、見るべき指標は変わります。オウンドメディアでは、主に次のKPIのなかから設定されます。
KPIの設定例)
ゴール | KPIの設定例 |
---|---|
見込み客獲得が目的 | PV(ページビュー) |
セッション数 | |
滞在時間 | |
回遊率 | |
UU(ユニークユーザー) | |
SNSシェア数 | |
問い合わせ件数 | |
顧客化が目的 | CVR(成約率) |
ファン化が目的 | リピート数 |
リテンション率 |
★成功のポイント
KPIは、施策の効果を途中経過として評価するために設定します。そのため、目標(KGI)達成にもっとも相関が高い指標を設定することがポイントになります。
実行フェーズ:3.良質な記事制作
コンテンツの方向性が定まったら、いよいよ制作段階に入ります。ここでは、オウンドメディアを成功に導く記事制作の考え方に焦点を当てて説明していきます。
記事制作で重視しなければならないのは、やはり「ユーザーにとっての価値(有益性)」です。現在、Googleは「ユーザーの利便性を最優先する」ことを基本方針とし、コンテンツの質を評価する姿勢を示しています。
つまり、検索エンジンによる上位表示を狙うには、ユーザーのベネフィットが不可欠になっているということです。また、「顧客との関係性を構築する」オウンドメディアの目的から見ても、ユーザーの期待に沿わない記事では役割を果たせません。
では、良質な記事とは何か。「ユーザーにとって価値のある情報」という観点から考えると、次の3つの要素を満たすものと整理できます。
- ユーザーの検索意図に合致している
- 信頼性の高い情報である
- 読後の満足度が高い内容である
これらを満たすように記事制作を行っていくと、自ずと集客力が上がり、ユーザーが期待する行動をとってくれ、ファン育成につながるという好循環が生まれます。
★成功のポイント
集客力のある記事を制作する第一歩は、「検索意図との合致」です。次の2ステップで進めていきます。
1.検索意図を理解する
検索意図とは、「ユーザーが何を知りたいと思い、そのキーワードを打ち込んだのか」、目的・理由になっていることを指します。検索意図を調べるときは、ユーザーが「何を解決したいと思っているのか」、背景にある心理に着目することが重要です。
おすすめしたい方法は、同じキーワードで上位表示されている記事の内容から推測することです。検索上位にある記事は検索意図に合致しているといえるため、記事の方向性を考えるうえで参考になります。
2. 検索意図を満たす構成を作成する
検索意図を把握したら、次にこれを満たす内容を検討して全体構成を作ります。このときに、上位記事にはない差別化要素を盛り込む、あるいは切り口を変えるなどの工夫をすると記事の評価が高まりやすくなります。「情報の深さ」「情報の網羅性」「独自性のある情報」「読みやすさ」の観点から考えるのがポイントです。
検証フェーズ:4.効果検証・改善
記事を配信したら、定期的に効果検証を行います。オウンドメディアの効果分析では、アクセス解析ツールを活用して、KPIの数値から改善ポイントを探るのが基本です。
Googleアナリティクスが一般に多く使われていますが、その他にもさまざまなツールが提供されています。自社に適したものを活用すると良いでしょう。
★成功のポイント
効果分析では、良かった理由・悪かった理由を明確にして、改善ポイントを絞り込んでいきます。
ここで注意したいのは、一気に思いつく限りの改善を行ってしまうと、どの施策がどの数値に影響したのか把握しにくくなる点です。「どの数値を上げるために、何を改善するのか」。これを明確にして進めることが、PDCAを上手に回していくポイントです。
記事の質を高めるライティングのコツ
オウンドメディアにおける良質な記事については、前述しました。ここでは、読まれる記事に共通するライティングにフォーカスして解説します。
※コンテンツ記事の書き方について詳しく知りたい方は、こちらも参考にしてみてください。
分かりやすく読みやすい文章には、基本となるいくつかのテクニックが使われています。優れた文章は、途中でつまずくことなく読み進められ、内容がすんなり頭に入ります。
とくにWebライティングでは、ページ離脱されない書き方を徹底する必要があるため、この基礎テクニックを押さえておくことが重要です。
まとめると、次の3つに集約されます。
- 分かりやすい構成
- 読みやすい文章
- 信頼感がある表現
一つずつ、ポイントを解説していきましょう。
文章の構成で「分かりやすく」なる
「何を言いたいのか要点が分からない」と感じる文章は、構成が整理されていないことが原因です。
この問題を解決する書き方が、「PREP法」です。以下の順に書き進めていきます。
- Point(結論):結論は、~です
- Reason(理由):なぜなら、~だから
- Example(例):たとえば、~がある
- Point(結論):したがって、~です
PREP法には、「要点が即座に伝わる」「説得力が高まる」「要点が記憶に残りやすい」というメリットがあります。プレゼンなど、限られた時間内に相手の心をつかみたい場面で、効果を発揮するテクニックです。
Webでは、ユーザーが知りたい結論が最初に書かれていないと、すぐに離脱される傾向があります。読了率を高めるうえでも、PREP法はWebライティングに適している書き方です。
PREP法については、下記の記事で例文などを交えて詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
一文の作り方で「読みやすく」なる
「読みにくい」と感じる文章は、一文の作り方を見直すことで改善できます。覚えておきたいポイントを2つ紹介します。
一文を短くする
一文が長くなると、読み手は内容を理解しにくくなります。原因で多いのは、以下の2つです。
- 「~ですが、~なので、~し、」のように、接続詞で文をつなげている
- 「~という」「~すること」「~するもの」など、回りくどい言い方を多用している
読みやすい文字数の目安は、一文60字程度です。一文が長くなっているときは、接続詞でつないでいるところを句点「。」で区切る、回りくどい表現を削除すること。この2つを取り入れてみてください。
リズム感を整える
「なんとなく違和感がある」文章の欠点は、リズム感です。多い原因は、同じ語尾を続けていることです。例文を見ていきましょう。
- 例文)
『プレゼンでは、結論を先に述べることが重要です。最初に相手の関心を引き寄せる必要があるからです。相手が知りたいのは、どんな課題を解決できるかです。したがって、メリットを最初に伝えることが大切です。』
意味は伝わるものの、「~です」が繰り返され、単調な印象を与えています。
- 改善例)
『プレゼンでは、結論を先に述べることが重要です。最初に相手の関心を引き寄せる必要があるからです。相手が知りたいのは、どんな課題を解決できるか。したがって、メリットを最初に伝えることが大切です。』
改善例は、3つめの文の語尾を変えただけですが、気持ちよく読めるリズムになりました。基本的に、同じ語尾が3回続くとリズムが悪くなります。読み直したときにリズムが悪いと感じたら、語尾に変化をつけてみましょう。
表現の工夫で「信頼感」がアップする
ユーザーの信頼や共感を得られない文章は、あいまいな表現が多い傾向があります。ここでいう「あいまいな表現」とは、具体性のない文章という意味です。
3つの例を見ていきましょう。
- NG例:短期間で上達
OK例:1カ月で○○できる - NG例:持ち運びに便利
OK例:折りたたむと片手に収まる - NG例:アイデンティティがある
OK例:「生活を便利にする」という主張がある
1では数字を、2ではシーンを具体的にすることで、ユーザーが「本当なの?」と疑問を持たないように工夫がされています。
3は、「意味を開く」というテクニックの例です。読み手によって、どうにでも受け取れるあいまいな表現を避けて、意味を分かりやすくしています。
ユーザーの信頼・共感を得る文章を作るには、常に「読み手の目線」から考えることが重要です。
オウンドメディア運営の壁「PVが伸びない」ときの乗り越え方
オウンドメディアを立ち上げたものの、思ったようにPVが伸びないこともあります。
社内で費用対効果が問題視されるようになり、当初の編集方針を変えてPV重視の施策に移行してしまうケースも少なくありません。必ずしも間違った考え方ではありませんが、結果としてメディアの価値が失われ、最終的にやめてしまうパターンも少なからずあります。
多くの企業がこの問題にぶつかるのは、すぐに結果を出したい意向が強いためです。
しかし、オウンドメディアは、ユーザーとの接点を広げることで検索順位が上がるため、そもそも長いスパンで結果を見ていく必要があります。現在、成功例として取り上げられているオウンドメディアも、多くは1~2年の期間を経て実績を上げています。
PVが伸びない理由は、配信する記事の品質や本数、更新頻度、SEO対策、拡散の仕組み化など、さまざまな要因が考えられます。重要なのは、的確な分析と改善のサイクルを継続していくことです。
コンテンツはリリースしたら終わりではなく、グロースさせるものです。アップデートを前提に、継続的な運営ができる体制を整えることも成功のポイントです。